こんにちは。Clover出版事務局田中です。みなさまは、家族同然だった猫ちゃん、またはワンちゃんを亡くしたご経験はありますでしょうか?
きっと、心にぽっかり穴があいたような気持ちになったり、「あの時もっとああしてあげればよかった・・・」と罪悪感や後悔の気持ちでいらっしゃる方も少なくないかもしれません。
2002年より個人で不遇の犬猫の保護譲渡活動をつづけ、これまで350匹を超える犬猫たちと温かい家族とのご縁をつないでこられた、台湾出身の田辺アンニイさんからお手紙が届いています。ペットロスを乗り越えるためのヒントになるかもしれません。
ノラたちが繰り広げる、ほっこり心があたたまるストーリーを本日もお楽しみください。
現在私は二匹の愛猫と都内のマンションに暮らしています。
猫と生活するようになって「たまに発する独り言」が「楽しいおしゃべり」にかわりました。
たとえ私の言葉が100%通じていないとしても、話しかける相手がいることのありがたみを感じています。自分以外のだれか(しかも気を遣わずに済む相手)がそばにいてくれるのはすばらしいことですね。
よく、「猫は気ままな生き物」と評されていますが、うちの猫たちは私にくっつくのを生き甲斐としてくれているような甘えん坊の男の子のコンビです。
コンビといっても、二匹はきょうだいでも友だちでもありません。生まれた時期も育った場所もぜんぜんちがうのです。それでも二匹は日夜団子状になってくっついて離れません。
私が構ってやれないときは、二匹で勝手にイチャイチャしてくれています。ちなみに仲よしの二匹のおかげで、「お留守番」をさせる心痛や心配も半減しています。「まあ私がいなくても今ごろ勝手にやっているんだろう」と。
猫と生きる喜びに満たされ、十代、二十代と病気がちだった私は身体が丈夫になりました。養う家族がいてくれることで仕事や活動にもハリが出ます。
そんなわけで本日は、今日で家族になって十二年記念日を迎えた黒白の「あまた」に日ごろの感謝を込めて彼との出会いを振り返りたいと思います。
十二年半前、私は近所で保護して子猫のときから育てていた愛猫を病気で三歳という若さで亡くし、ひどいペットロス状態に陥っていました。
インターネットの里親募集の掲示板を覗いて先代猫と同じ黒白模様の猫を見つけては、ああ似ている、でも似ていない、と、勝手に喜んだり嘆いたりしていたのです。
そんなある夜中、隣の市の個人宅に保護されている黒白の成猫「カン太くん」の写真が私の目に飛び込んできました。古いデジタルカメラで撮られたその一枚は、ブレてはいたものの、私にとって強烈に印象的だったのです。
カンタくんの第一印象は、うわ、図体がデカそう……。
にもかかわらず、何だろう? この脱力ぶりは……?
保護している女性の脇の下に顔をうずめ恍惚の表情のカン太くん。彼の前のめりのスキンシップの取り方に興味が湧き、まあるいフォルムに妙な安心感をおぼえました。
このときはじめて、半年前に亡くなった愛猫をいい意味で「過去」として受け入れられた気がします。
「カンタくんに一目会いたい……」一晩悩んでも私のカンタくん熱は下がらなかったので、翌朝思い切って保護していた方にコンタクトを取りました。するとすぐさま返事が来て、その後とんとん拍子に話が進み、カン太くんと私の縁談がまとまったのです。
数日後、キャリーバッグの中に縮こまってうちにやってきたカン太くんは、彼なりに縮こまってはいるものの、写真よりさらに巨大で驚いたのをおぼえています。向かい合ってコーヒーを飲みながら、カン太くんを保護した女性に保護のいきさつを聞いて、私はカン太くんにますます惚れました。
「いえね、だれかに捨てられたのか、去年の十二月に急にマンションの駐車場に現れるようになったのです。寒い冬の時期に出会った太った猫だから、“寒太(カンタ)”と名づけました。名前に特に思い入れはないので新しいものにかえてくださいね。
カン太の前に駐車場にいた小柄のメス猫を私が自宅に連れて帰ったところをカン太は遠くで見ていたのです。メス猫はすぐに里親さんが決まり、私のもとを巣立ちました。
すると“今度はぼくの番でしょう?”とばかりにカン太が私を圧迫するようになったのです。
カン太はふだん、駐車場の端の茂みに隠れています。茂みなのにカン太型にくぼんでいる場所があるんです。カン太が重いからですね(笑)。
仕事へ出ようとする私を見つけると、すぐさま駆け寄ってきて、ワーワーワーワー激しく喚くのです。“今度はぼくの番でしょう? ぼくの番でしょう?” と。ごはんをあげて立ち去ろうとしても残して追いかけてくるのです。また、近所で私がマンションに戻ろうとするところをカン太に尾行されたりもしました。私のあとを離れず、百メートル以上鳴きながらついてくるのです。
そしてついにはマンションのエントランス付近で喚くようになったのです。もうさすがに根負けしてカン太を連れて帰る決意を固めました。第一、近所迷惑ですから……。
保護したはいいけれど、こんなに立派な体格の子に里親さんが見つかるか不安だったんですよ。ふふ。世の中にはいろんな趣味の方がいるのですね。あ、それから、家に入れたあと、カン太は鳴きもせず、ケージの中でおとなしく何日も寝ていました。きっとノラ暮らしに疲れたのですね。
十二年経った今でも女性が語ったカン太ストーリーを思い出すと切なくて胸がきゅんと締めつけられます。と同時に、カン太くんの、夢を叶えようと努力した不屈の精神に頭が下がる思いです。飼い主の私も見習わなければなりません。
カン太は「あまた(甘太)」に改名され、我が家で必要不可欠の存在として生きています。さまざまな病気と闘い、やせ細り、ヨボヨボのおじいちゃん猫ですが、十二年分の私の涙も笑顔もそばで見守ってくれたたいせつな家族です。あまたへの日ごろの感謝を込め、「カン太くん時代」の武勇伝を皆さまにご紹介させていただきました。
カン太くんも面倒見のいい兄貴分として登場する「ノラ猫あがりのスターたち」は、私が一年かけて書いたいろいろな保護猫たちの武勇伝。私と出会ったノラ猫のサクセスストーリーですが、人間社会に通ずる事柄がたくさんあります。猫が好きな方も苦手な方もこれまで興味のなかった方もぜひお手に取っていただければ幸いです。
長い文章をお読みくださりありがとうございます。
皆さまのたいせつなご家族やご友人、ペットたちが一日でも永く皆さまと伴にありますように。
ブログ「幸せの703号室」
田辺アンニイ
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